あの日の風景
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かつて広場にあった置物
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2003年5月末、再びニューヨークの地を踏んだ。世界を震撼させたあのテロ事件からもう1年半が既に経過している。久しぶりのニューヨークの街は、相変わらずの雑踏と活気に満ちていたが、ローワーマンハッタンは未だにテロの爪跡が色濃く残っているような錯覚に捉われた。かつて天上まで届くがごとく聳え立っていたツインタワーの姿はどこにも見えず、巨大な工事現場と化してしまったグランド・ゼロが重々しく存在している。
地下鉄を乗り継いでたどり着いたバッテリーパークには、かろうじてその原型を留めたボール型の置物が観光客のカメラの格好の獲物として幾多のフラッシュを浴びていた。かつてはツインタワーの足元に静かに佇み、そこを訪れる一日何万人もの通り過ぎる人々を見つめていたこの置物も、今は哀れむばかりの傷だらけのまま、バッテリーパークの片隅で、あの日の悲しみを無言で訴えているようだ。
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復旧したウィンターガーデン
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ウインターガーデンのグラウンド・ゼロを見る観光客
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ワールド・ファイナンシャル・センターの中にある、ウィンターガーデンの東側、崩れ落ちたNorth Bridgeの代わりにグランド・ゼロを見下ろす展望場所が新しくできていた。一面ガラス張りになったこの空間には「From
Recovery to Renewal」の垂れ幕が架かっている。そこから見える工事現場さながらのグランド・ゼロでは、かつての悲しみをどこかに置き忘れたかのように整然とした建設工事が行われており、まさに復旧から更新のステージへと新しい道を歩みだしているかのようだ。
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North Bridgeの代わりに作られた展望場所
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グランド・ゼロの今
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地下7階分の抉られたグランド・ゼロでは何台ものトラックが行き交い、ショベルカーやタンクローリーも忙しそうに出入りを繰り返している。あの日以降、数ヶ月にもわたって復旧作業をしていた何百人もの消防士や、警官、軍隊の代わりに工事用ヘルメットをかぶった建設作業員達が仕事をしている姿が遠くに見える。
あちこちのガラスが割れた無残な姿をしていた「ミレニアム・ヒルトン・ホテル」も、元通りのきれいな姿に戻っており、たくさんの観光客、ビジネスマン達を迎え入れていた。ニューヨーカーの間で人気の買い物天国、「センチュリー21」も去年再オープンし、あの日の出来事が起きる以前の活気をとりもどしていた。
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グランド・ゼロの今2
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グランド・ゼロの今3
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ウィンターガーデンの一階に階段を下りると、以前にはなかったガラス張りの展示場が階段の周りを取り巻くように作られていた。たくさんの観光客が、様々な思いを込めて熱心に惨劇の記録を見入っている。たった27年しかこの世に存在することができなかった世界に名だたる高層ビルだったツインタワーの誕生の瞬間から、惨劇の日の記録、そして、グランド・ゼロに立てられることに決まった跡地利用の新たなる高層ビル群の模型、設計図などがそこに展示されていた。
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グランド・ゼロの跡地利用の模型
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WTCの記念パネル展
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この新しい高層ビル群の模型を見ていると、なぜか複雑な気持ちになってくる。跡地利用の再開発計画の案の中には、高層ビルをあえて建てずに安全性を重視した低階層のビル群を建てる案もいくつかあった。しかし、かつてのニューヨーク、いや、アメリカのシンボルでもあったツインタワーに負けず劣らずの高層ビル案が最終的には選択されたところに、アメリカ人の不屈の魂を感じざるを得ない。誇りか、人々の安全かを天秤にかけたわけではないとは思うが、同じような惨劇が2度と起きないことをこの模型を見ながらこっそりと祈った。
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「Ground Zero、1年半後 その1」