「2001年9月11日の悲劇 ・・・ さらば、ツインタワーのある風景

新聞に映る事故現場

在りし日のWTC


2001年9月11日8時48分、その瞬間をサンフランシスコに向かうためのUnited Airlineの飛行機の中で向かえた。JFKはいつものように旅行者で賑わい、ビジネスマン、家族連れなどでいっぱいだった。9時15分出発予定の飛行機は9時半を過ぎても滑走路には出て行かないこと訝しく思い始めた頃、突然の機長からのアナウンスがあった。「全員飛行機から退去してください」。乗客はみな何が起きたのだろうと口々に不満を呟きはじめた中、後部座席に座っていた中東系の男性が携帯電話を耳に付けたままに大声で叫んだ、「ハイジャックが・・・。ツインタワーに飛行機が激突!!」と。

ざわめく乗客、状況が掴めずに不安そうな表情に人々は顔を曇らせる。押し合いながらブリッジを抜け、小走りぎみに出発ロビーに戻ると、突然Unitedの建物から全員外に出るようにと、アナウンスが空港中に響き渡った。チケットカウンターに駆け寄り、次の便は何時か訪ねるが、今日はもう一切飛行機が飛ばないから早く建物から出るようにと一方的な返事しかもらえない。何が起きたのだろう?わらわらと人々が建物の外に出て行く。周りを見渡すと、建物から出されたのはUnitedだけではなく、AAもDeltaも建物から押し出された人々が道に溢れ出ている。タクシー乗り場は空前の人だかりで、とてもタクシーは拾えそうにない。

 

10:00のJFK空港

空港で当てもなくさまよう人々


仕方がないので、マンハッタン行きのバスを待つが、1時間経ってもケアリーバスの姿も、地下鉄駅に向かう空港巡回バスの姿もかけらも見えない。何かわからないが、あきらかに何かが起きた様子。携帯電話は完全に飽和し、全くどこにも繋がらない。諦めずに何度もリダイアルを繰り返しているうちに、ようやく会社に電話が繋がった。

「ハイジャックされたジャンボがツインタワーに2機衝突、今さっきツインタワーが崩れ落ちた。もうツインタワーはなくなってしまった」。まさか・・・ツインタワーがなくなるなんてことはないだろうと思い、上部が折れたりしたのかと勝手に理解する。聞くところによると、マンハッタン島を繋ぐ全ての橋、トンネルが封鎖されたとのこと。もう今日はマンハッタンには戻れないらしい。空港にはTVもなく、まだ一切の映像を見ていないので俄かには信じられない話だ。このままここにいても何もわからないから、国際便発着ターミナルに行ってみることにする。

メインターミナルのインフォメーションのコーナーには黒山の人だかりだった。今日一日は全ての便がキャンセルになったため、とりあえず空港から移動する先、ホテルを求める人々が不満を口にしながら雑然とインフォメーションコーナーを取り囲んでいる。幸いにもラストワンの部屋が確保できたので、ホテル行きの車に乗り込む。 フロントに出来た長蛇の列を待ち、ようやく部屋にチェックインしたときにはもう3時を回っていた。部屋に入るなりTVのスイッチを捻る。そこには信じられない光景が映し出されていた。

 

燃え続けるダウンタウン

煙の中のWFC


見慣れたワールド・トレード・センター(WTC)の象徴的なツイン・タワーから煙が立ち昇っている。次の映像ではWTC2が頭から崩れ落ちていく様がスローモーションで映し出されていた。続いて崩れ落ちるWTC1。あまりにもあっけない、ツインタワーの最後だった。まるでハリウッド映画の様な、現実味のない映像。ニューヨークの象徴、アメリカ経済のシンボルだったツインタワーが一瞬にして消滅してしまった。その場で呆けたように呆然とTV画面を見入ってしまい、画面に映る衝撃の映像をなんとか解釈しようと頭をフル回転させようとしても全く機能せず、固まってしまった。

その夜は今だかつて経験したことがないほど長時間、延々とTV画面に釘付けになった。爆発するツインタワーから逃げ場を失って飛び降りる人々、崩れ落ちるタワーの爆風から逃げ惑う人々、瓦礫の下に沈む消防車やパトカーの映像が次々と映し出される。タワーに飛行機がぶつかる瞬間の映像や、崩れ落ちるタワーの映像には戦慄が走った。いったい何人が亡くなったのだろうか。知人は、得意先は、救出に向かった消防署や警官達は・・・

 

街中には半旗が揚がる



ツインタワーのあった風景


一夜開けた今朝、ようやく一部の地下鉄が動きだし、クイーンズ経由でマンハッタンへ戻ることができそうだ。空港近くのブルックリンのホテルから一旦クイーンズのフラッシングまで出て、ようやく駅にたどり着いた。クイーンズブリッジに近づく頃、地下鉄車内からマンハッタンの見慣れた風景が見えてくる。ダウンタウンの方向からはいまだに煙がもくもくと上がっていた。しかし、いつも目に入る、そこにあるべきはずのツインタワーの姿はその摩天楼の風景には見つからなかった。53丁目の駅に着き、地下鉄を降りて地上に上がると、街のあちこに半旗がかかっているのが目に入った。

会社に着いてワールド・トレード・センターで働いていた知人が無事だったことを聞いてほっと胸を撫で下ろした。彼女は46階で仕事をしていて一度目の衝突を経験し、非常階段を1時間半かけて脱出した。けが人を下ろしたり、救出に向かう消防署員達を優先させながらの脱出だったので、時間が掛かったとのこと。彼女が建物を出て10分もしないうちにタワーが崩れ落ちたのを目撃した時には、生きているのが不思議だったという。 脱出する脇を逆方向に駆け上がって行った救出隊の人々はみな帰らぬ人となったであろうことは容易に想像ができた。今もなお瓦礫の下で救出を待っているのかもしれない。

別の知人がツインタワーの隣に立つ、ワールド・ファイナンシャル・センターで仕事をしていた。一度目の飛行機の激突時、地震かと思って窓を見ると上からは無数の紙が舞っていたそうだ。遠く上方に見える炎を目にし、ヘリコプターの事故かもしれないと同僚と話をしているうちに2機目の衝突による爆発が起きた。この時点で単なる事故ではないことを実感したという。窓から見るツインタワーの前を大量の紙に混じって無残に落ちてくる人々の姿が映った。道路には、叩き付けられた遺体が何体も転がり、駆けつけた救助隊が車外に出れないほどの瓦礫が次から次へと上方から落ち続けていた。 建物から退去指令がでて とるものもとりあえず外に飛び出して見上げると、そこには真っ黒な煙と赤々と燃える痛ましい姿のツインタワーが目に入った。このままではタワーが崩れるかもしれない、とにかくタワーから遠くに離れなければと思い、慌ててニュージャージー行きのフェリーに飛び乗った。ハドソン川から見えるツインタワーはいつもの見慣れた風景ではなかったという。

 

14丁目以下は車両通行禁止

車両の消えた2番街


少しずつ昨日からの交通規制が解除され、マンハッタンへの車の乗り入れがジョージ・ワシントン橋、クイーンズ・ボロー橋、ミッドタウン・トンネルなどではじまった。がらんとしていたストリートに車の数が増えてきた。だが、今だにダウンタウンからは煙がもくもくとあがっている。ダウンタウンの現場一帯では電力供給が一切止まっている。地域一体に電気を供給しているコーンエジソンの分配機は崩れたワールド・トレード・センター7の下敷きとなっているためだ。人命救助を優先させることから、復旧には長い時間がかかりそうだ。14丁目より下部は一般車両の立ち入り禁止区域に指定された。バスも通っていないため、歩いてイースト・ビレッジのアパートに帰る。ビレッジの道路を通り過ぎるのは救急車と警察車両だけだ。途中で立ち寄ったスーパーには肉、牛乳は既にその姿を陳列棚から消していた。ガソリン代は高沸して普段の2倍以上になっている。

空港の封鎖も今日の昼12時で解けるはずだったが、未だに解けていない。まだしばらくは民間航空機がアメリカ国内の空を飛ぶことができないようだ。同時テロにやられたワシントンDCのペンタゴン(国防総省)では、約800人もの人々が亡くなったらしい。ワールド・トレード・センターでは救出に向かった400人弱の消防署員、警察の人々が亡くなったという報道だ。いったい何人の人が崩れ落ちたツインタワーに残っていたのかは未だにわかっていない。

アパートに帰宅して、屋上に上がる。ここから見るローワーマンハッタンの景色はちょっとした自慢だった。北にエンパイア・ステート・ビル、南にツインタワーが見渡せた、このアパートに住むことを決めた理由とも言える、大好きな場所だ。メディアに映るニューヨークの風景には必ずといってもいいほど映る、ツインタワーの姿をそこに見つけることはできなかった。もうブルックリン橋から見るマンハッタンにも、スタッテン島に行くフェリーから見るマンハッタンにも、自由の女神から眺めるマンハッタンにも、エンパイア・ステート・ビルから見るダウンタウンの景色にも、ツインタワーの姿はない。 ニューヨークの象徴、アメリカ経済の象徴だったツインタワーが魔法でも使ったように一瞬で消えうせてしまった。今後ツインタワーのある景色を見ることは二度とないであろうことを思うと心が震えた。

「さらば、ツインタワー・・・」

 

追記:
この度の同時テロで命を落とした方々に心からご冥福をお祈りします。今もTVではハイジャックされた飛行機から家族へのさよならを継げる携帯電話からの声があったことを伝える悲しい話が伝わってきています。懸命に救助作業にあたる救助隊の活躍がカメラに映っています。顔写真を手に行方を探す家族の映像が流れています。献血をしに長蛇の列を作る人々がいます。宗教の名のもとに、思想の元に人命を奪うテロリズムは許されざるものです。



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