「惨劇の後、悲しみは続く

ユニオン・スクエアに集まる人々

花と蝋燭が絶えない


事件から12日が経った。WTCの行方不明者の数は6333人に増えている。あの一角だけで神戸の大震災の死者数を超えてしまった。街の大部分は平常どおりに機能し始め、道路、地下鉄もいつもの状態に近づいた。ブロードウェーも再開し、学校、会社も動き始めた。ミッドタウンのオフィスにいると、今もダウンタウンで続けられている救助活動なんて別の国で行われているような錯覚にとらわれてしまう。ただ、以前と違うのは、街のあちこちに異常に星条旗が増えたことだろうか。

 

千羽鶴や寄せ書き

行方不明の人々


久しぶりに14丁目にあるユニオン・スクエアに行ってみた。公園は溢れんばかりの人で埋め尽くされていて驚いた。事件の翌日から自然と花束、蝋燭が並べられ、地面に貼り付けた模造紙はたくさんの人達からの寄せ書きが広場を埋め尽くすほどに増えていた。この公園は、夜中も明かりが絶えないようにと、蝋燭の火を燈しながら祈りをささげる人々が毎晩集まってきた場所だ。


現在のアメリカ経済はただでさえバブルが崩壊してぼろぼろになっていたところにこのテロがあり、壊滅的なダメージを受けて瀕死の状態だ。ブッシュの大統領就任以来の不人気は相変わらずで、支持率を上げるためにも、どうしても今戦争が必要なのかもしれない。 もともと軍需産業が経済の基盤を支えているだけに、ミサイルや爆弾を湿気らせる前に消費しなければいけない。落ち込んだ人々の気持ちにもやり場を与えなければとの思いも少なからずあるのだろう。

花が絶えない

自由の女神はこんなところにも


事件後のTVの報道、大統領の演説を聞くうちに、この国が着実に戦争に向かっている様子が手に取るようにわかる。愛国主義が蔓延し、復讐することで悲劇を乗り越えようとしている。メディアも足並みを揃えるように意図的な報道を行っているような気がしてならない。そんな中でユニオン・スクエアには反戦を唱える人々が声高く訴えていたのはとても印象的だった。

NO TO WAR!

反戦を訴える人々


今回は湾岸戦争とは明らかに違う。国と国との戦いではなく、民族、思想との戦争になってしまう。民族、思想を根絶やしにすることは不可能だ。ベトナムの泥沼再びにならなければよいと、そんな思いがユニオン・スクエアでの反戦運動につながっているのではないだろうか。反戦を唱える彼らは今回のテロリズムを許さない。アメリカがはじめようとしている戦争も許さない。戦いでは結局何も変わらないことを訴えているのだ。 広場の銅像に書かれていた落書きは「Love」、「Peace」。かつてジョン・レノンがイマジンに込めた思いは今も人々の心に刻みついているのではないだろうか。

アーチにかかる星条旗

ツインタワーのないワシントン・スクエアの景色


ユニオン・スクエアから散歩がてらにワシントン・スクエアに向かって歩いてみた。5番街のはじまるアーチには、星条旗がかかっていた。噴水から南を見ても、そこにツイン・タワーの姿はもう見えない。この公園からのダウンタウンの景色にはいつもツイン・タワーがあったのに・・・

アーチの周りには無数の蝋燭が並んでいる。その前には蝋燭に火を燈す人、祈りをささげる人、写真をとる人等がたくさんいた。修復中のアーチを囲む金網には行方不明、亡くなった恋人、家族、友人の写真が並ぶ。それを見て涙ぐんでいる人達の姿も目に入る。

アーチの前には無数の蝋燭

祈りを込めて火を灯し続ける


9月23日の日曜日、ヤンキースタジアムで被害者の家族、友人を集めて追悼集会が行われた。クリントン元大統領、ヒラリー上院議員、ジュリアーニ市長、パタキ上院議員、ディンキンズ元市長などそうそうたる顔ぶれが集まった。TVのどのチャンネルをひねってもこの追悼集会が生放送されていた。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、ヒンズー教の異なる宗教の司教たちが勢ぞろいして、祈りの言葉を捧げた。どの宗教も関係なく、亡くなった人々を思う気持ちは同じだ。ベット・ミドラーが生で「Wind Beneath My Wings」を歌った。亡くなった261人の警察、救急隊、消防士たち、本物のHEROへの感謝を込めた歌声だった。


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