9月のニューヨークの街中は警官だらけで、車は多いし、非常に混雑していた。国連で過去最大の首脳会議が行われていたからだ。百数十カ国の首脳が一同に集まるのは初めてのことだったらしい。
ウォルドルフ・アストリアの前にはVIPが乗るリムジン用のレーンができ、コンクリートの塊で仕切られたパークアベニューはいつもより混雑がひどく、久しぶりに乗ったタクシーの運転手もぼやいていた。
仕事帰りの道すがら、何やらシュプレヒコールが聞こえてきた。たまに見かけるストライキが頭に浮かんだが、もう夜のとばりが降りて久しい。通常ストライキのために夜中まで活動する気力を持ったアメリカ人など見たこともないから驚いた。
声のする方向に歩いていくと、大量のアジア人が同じTシャツを着て固まっていた。「法輪大法」という大きな幕を掲げてみな声をそろえて何かを叫んでいる。やっぱりストライキではなかった。
「Freedom Tibettan, Freedom Tibettan」というシュプレヒコールが聞き取れる。そう、彼らはこの首脳会議にあわせて活動をしていたチベット人の活動家達だった。中国の先にあるチベットは日本からは遥か彼方の印象を持っていたが、うちの近くのレストランがチベット料理のお店だったのをふと思い出した。
あれ、チベットって独立していたんじゃなかったっけ?政治に疎いために、状況が今一つ掴めない。そういえば、未だに中国の政治影響下に置かれていたんだったような気もしてきた。ニューヨークに住んでいる日本人にとっては遠い国の話かもしれないけど、ふとメガネをかけた兄ちゃんの手渡したチラシを受け取った。
そこには中国で起きた活動家への弾圧が写真と共に紹介されていた。北京の大学の教授「Falun Gong」さんが昨年7月に突然理由もなく逮捕され、釈放されたときには自分で呼吸もできない無残な姿に変わり果てている写真だった。ここに集まった人達はチベット問題だけではなく、閉ざされた国家、中国政府への精一杯の訴えをしていたのだ。
彼らの叫びは食事を終えて戻ってきた11時頃もまだ聞こえていた。
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