「 中国からきたバイオリン弾き」



地下鉄6番の52丁目駅にて
仕事帰りの地下鉄を待っていると、妙に懐かしいバイオリンの響きを聞いた(余談だが筆者はかつて弾いてたことがあるらしい・・・)。ふと新聞から目をそらして音のする方向を見上げてみると、彼がバイオリンを弾いていた。これまた古い話で恐縮だが、彼は何年か前にタイムズ・スクエア駅でよくみかけた中国人で、当時のお気に入りストリートミュージシャンの一人だった。

当時のNYタイムズに写真入りで彼の記事が載っていて、つい馴染みの顔なのでがんばって記事を読んだのを覚えている。彼の名前はJOHN、大陸から移民してきた。そのインタービュー記事には彼の中国名は載っていなかったが、彼が中国の交響楽団のコンサートマスター(第一バイオリンのリーダー兼オーケストラのまとめ役)をしていたことが記されていた。交響楽団のコンサートマスターがどのような経緯でニューヨークの地下鉄の駅でバイオリンを弾いているかは明らかにはされてなかったが、彼がその生活を楽しめるようになったと記載されていた。豊かな日本の暮らしから米国に憧れて留学をしに来た自分とは明らかに違う人生の選択をしたのだろうと勝手に思い描いてみたものだ。

タイムズ・スクエア駅で、当時JOHNの相棒だったチェロ弾きと別々のプラットフォームに分かれてのミニコンサートに、電車を2,3本乗り過ごして聞き入った日々を思いだしていた。今日のJOHNはたった一人で、協奏曲であるバッハの「バイオリン協奏曲」を奏でていた。しばしの間時を忘れて聞き入っていたが、電車を乗り過ごす心の余裕がなく、閉まる電車の扉と共に彼の演奏が聞こえなくなってしまった。次に再開するときは、ゆっくり聞きいってみようと思う。あの頃のように。


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