「 NYの地下鉄が変わる時」







仕事帰りの地下鉄のプラットフォーム、その車両が視界に入るなり、小さな驚きを覚えた。ぴかぴかの一年生よろしく、真っ新な車両がホームに滑り込んだ。ここ十年ぐらいこれほどきれいになった電車はみた記憶がない。80年代の落書きだらけの車両はさすがに知らないが、ナイフで彫り込んだきたない車両に親しみを覚えかけるほどに見慣れた車両ではなかった。

銀色に光輝く外観には傷一つついておらず、一歩中に踏み込むとそこには鮮やかな紫がかったブルーのシートが目に飛び込んできた。壁には見慣れた「ANGRYMAN.COM」の広告と地下鉄の地図がわずかにいつもの地下鉄の姿を思い起こさせる。開いているシートに腰を下ろし、ゆっくりと車内を見渡すと、見慣れない電灯表示が目についた。そこにはなんと「次の駅」が表示されているのだ。日本で地下鉄に乗ったら当たり前のことかもしれないが、ニューヨークでは天地がひっくり返るぐらいの驚きだった。ドアの上には”電光”の路線図がついている。現在地が黄色く表示されていた。心の中で「おー」っと小さく叫んでしまった。

42丁目、グランドセントラル駅に近づくと「次はグランドセントラル駅ー」というアナウンスが聞こえてきた。この瞬間かすかな違和感に包まれた。あれ、なんか機械的だなーと思いつつ、34丁目の駅に着く頃にその違和感がなんであるのかがわかった。テープに吹き込まれたアナウンスだった。日本でバスに乗ると聞こえるあの無味乾燥で機械的なやつだ。通常、ニューヨークの地下鉄では以外に運転手が陽気にアナウンスをしている。これがまた例外なく聞き取りずらいときている。初めてニューヨークに来た頃は英語がわからないからだと思っていたが、後にそれが外国人である自分だけじゃなくて、ちゃきちゃきのアメリカ人でも同様に聞き取りずらいものだということがわかった。しかも気まぐれにアナウンスをする人、しない人といることも新鮮な驚きだった。そう、そのアナウンスがかならず流れるようになった。

黒人のディンキンズ市長が選挙で破れ、イタリア人のジュリアーニに市長のイスを明け渡したのはもう8年も前だ。街は危険な臭いがまだかすかに香る頃だった。この数年間でマンハッタンにあふれる警官の数は飛躍的に増え、身近で強盗に会った友人の数は極端に減った。ダンススクールの帰りの地下鉄で4人の若造に強盗されたルームメイトのナタリーの怒った顔も遙か昔のことだ。真新しい地下鉄の車両と共に新しいニューヨークが始まる・・・かどうかはわからない。




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